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『Destination that doesn't exist』 4
『Destination that doesn't exist』
~ 黄金の昼下がり - The Golden Afternoon - Extra Track ~

 あの時、「いつまでも彼女は心の中に生きているよ」となぐさめてくれた人もいた。でも今の僕にそんな言葉は通用しない。だって、呼んだってこの耳に返事は聞こえない。心の中にいたって抱き締められない。
 僕は景を愛している。僕はただ愛する人からの返事が欲しいだけ。ただひたすら僕は、存在しない人からの有り得ない返事を、たった一人で誰にも言えず、他に何も出来ず、ただ待ち続けている。他に欲しいものなど何もない。ただ僕は彼女が欲しい。僕に必要なのはただそれだけ、どこにも存在しない彼女だけ。

 景が存在しないことを僕は理解している。だから返事が来ることがないのも、ちゃんと分かっている。彼女のことを毎日どんなに想い続けたとしても、それは届くことなく、僕の気持ちはどこかよく分からない隙間へと消えて行く。
 僕の夢は大したものでは決してない。ただ彼女と一緒に生きたかった。それだけだ。どこまでも一緒に二人で生きたかった。その場所へは決して一人では行けない。あの頃は怖いものなど何も持っていなかった。だからそこへ行けると信じていた。それは幻なんかじゃなかった。
 だが今は怖いものだらけで、何一つ信じることもできず、どこかに掴まることもできず、そんな僕にこれから先、何をどうしろと言うのだ? 僕は目的地を失ったんだ。


 物や人はいつしか変わって行くって聞いた。
 僕は外野の騒音と、何よりも自分を乗り越えることができず、そのことを事実として受け止め、先へ向かうために自分も変化していくことも、でも、それでも変わらぬコトだってあるとまっすぐ信じる力も勇気も気力も意味も失いました。
 僕は存在しない目的地へ続く、存在しない道の上に、ただ立ち尽くしています。前に進むことも戻ることもできません。僕はただ、いつかこのまま立ち枯れて、強い風に吹かれて崩れ去ってしまう時を待ち続けています。
 景、もう僕はあなたの名前を呼ぶことしかできないよ。
 でも、それでもいいよね。

(おわり)
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『Destination that doesn't exist』 3
『Destination that doesn't exist』
~ 黄金の昼下がり - The Golden Afternoon - Extra Track ~

 休みの日は、本当に行く必要がある用事がない限り、外へは出なかった。テレビを見る気にもなれない。『ひかりのまち』のサウンドトラック以外は聴く気になれない。こんな風に本当の底を見たことのない奴らの作った物語や音楽なんて僕には嘘臭いだけだ。
 だからそういう日は、ビーフィーターのボトルと灰皿とiBookと携帯と一緒に、ずっとずっと一日中、床に座り込んでいた。
 iBookも携帯も、メールボックスは送信と受信両方、一番上は景からのもの、景へ宛てたものになっている。
 あれから携帯は解約しようと思ったし、メルアドも変えてしまおうと思っていたのだが、仕事や色々の事を考えると、なかなかそう出来なかった。それにいつだって機種変は景と一緒に、同じ機種の色違いにするのがお約束だから。僕はいつもダークな色のもの、景は明るい色のもの。
 だから日々入ってくる景以外からのメールは違うフォルダに分けて保存してある。メインのボックスの一番上は、いつだって景だ。
 そうやって一日中、床の上で現実味のない時間を過ごしながら、僕は待ってしまう。灰皿の横に転がった景とお揃いの携帯が、猫の声で鳴かないか、それともMEWの「156」を奏でないか待っている。

「ザジ?」
「おつかれ。仕事終わった?」
「うん。これから行きたいんだけど平気?」
「もち。今日はどこも行かないでボーッとしてたー」
「昨日も終電でしょ? 疲れてるんだよぅ。ね、今スーパーの前なんだけど、今日の夜ごはん、久々に鍋なんてどう?」
「うぉっ、いいねー! 久しぶりに鍋奉行様のご登場だー」
「中身、奉行にまかせてくれる?」
「うん。けどヘンなモン入れんなよ」
「どーかなー? はは、春菊入れちゃおっかなーと」
「う......それだきゃぁよしてくれ!」
「あはは。じゃ、またあとでね!」
「うん。土鍋出しとくね。あ、あと、悪いんだけどライム切らしてんだ。あとソーダと、いいのあったらミントの葉っぱ頼める?」
「おっけー!」
「じゃ、頼むね。気をつけて」

 それは白昼夢なんてどこかスウィートなものなんかじゃない。悪夢だ。なのに僕はこうやって少しでも時間があるとそこへ迷い込んでいる。いっそのこと迷い過ぎてそのまま出てこれなくなればいいのに。
 そんなことを繰り返して気付いてみれば、窓の外はもう暗くなっている。ビーフィーターの瓶が転がって新しい1本に口がついている。灰皿が山のようになっている。
 水のシャワーを浴びても、逆に焼けるぐらい熱いシャワーを浴びても僕はもう、リセットがかけられない。その次にはベッドに飛び込んで、いつか景がくれたクッションに顔を押し宛てて悲鳴を上げている自分がいる。いや、悲鳴というよりそれは、ワケのわからない叫び声だ。僕の中で怪物共が手がつけられない程に暴れ出す。自分でも、自分をどうしようもできない。ただただ僕は、言葉ではない異様な声を発し続けている。

(つづく)
『Destination that doesn't exist』 2
『Destination that doesn't exist』
~ 黄金の昼下がり - The Golden Afternoon - Extra Track ~


 ほとんど毎日、帰りは終電もそろそろキビしい夜中だった。でもたまにスケジュールの都合や何やらでポコッと7時や8時台に帰れる日もある。そんな日は景のシフトを思い出し、途中で待ち合わせできれば今夜は外食にしちゃおうかな、と考える。地元駅前に先週、新しいダイニングバーがオープンして、なかなか良さそうな雰囲気だったよな、とか、それとも景が気に入ってるめちゃくちゃローカルな飲み屋にまた顔を出してみようか。それとも旨い酒を優先するなら、あそこのビルの上にある古くからやってる店だよな、とか。
「だから、なに存在しない人の事を......」
 そして、やはりいつまで経っても携帯は鳴らないのだ。
 僕は何か食べることなどできないから、そのまままっすぐ部屋へ向かう。

 一人で部屋に帰りつき、僕はまずあの頃と比べてすっかり殺風景になったキッチンへ向かう。まるで水道の水をコップ1杯飲み干すように、冷凍庫で冷えていたビーフィーターをあおる。それから着替えを済ませ、メインのG4とメールチェックに使っているiBookを起動させてから改めてキッチンへ立つのだ。
 またグラスを満たし、そしてソファへ戻ろうとしたところで、気付くと僕は冷蔵庫を力任せに思いっ切り殴り、そして手にしていたグラスを床に叩きつけている。
「だから、なに存在しない人の事を......」
 あれから一体、僕は何度、右の拳を痛め、いくつのグラスを割っただろう。
 透明な液体と共に床に散ったガラスの破片は氷と区別がつかなくて、後始末をするたびにどこか指を切る。だけど、僕はその中の大きく鋭いパーツの尖端を首に向けることはできない。そんなことを、景は望んではいないだろうと思うからだ。
 だが正直な所、最近はそれも良く分からない。
 あの時、やはりすぐ後を追いかければよかったんだろうか。周囲に迷惑をかけまくってみっともない病院送りにまでなり、こんな何の意味もない辛いだけの毎日を繰り返しているのだったら。
「だから、なに存在しない人の事を......」

 たまにやっているテレビの心霊番組とかでは、死に別れたダンナや恋人や親やらが、残された人間にあの世から語りかけている。自分の分まで生きなさい、私の事はもう気にしないで幸せになりなさい、いつまでも見守っているから......。
 でも、追いかけて向こうに行けば行ったで、再会を喜び合い、今度は永遠に終わらない空間の中で何の不安も抱えることなく、また二人きりになれるんじゃないんだろうか。
 そんなことを考えながらシャワーに打たれる。顔を濡らすのが水なのか涙なのか区別できない。

 ベッドに潜り込む時も携帯を手にしている。眠ってしまうといつの間にかそれは手を離れ、たいがいは足の方へ転がって行くけれど、夜中にその振動でビクッと目を覚ますことが一晩で何回かある。慌てて掴んで布団の外へ手を出せば、サブディスプレイに浮かんでいるのは見たこともない長いアドレスだ。開いてみるまでもない。
 疲れ果て、着信に全く気付けないほど爆睡してしまう夜もある。起きた瞬間に携帯を開くと紙飛行機の横に5という数字。それはまるでクジ引きをしているような気分だ。5通もあるんだから、1通ぐらいは景からの......
「だから、なに存在しない人の事を......」
 もういちいち怒る気にもなれなくなってしまったバカバカしい内容の迷惑メールを削除するたびに、僕はまた、そう唱えるのだ。
 そしてまた、同じような朝がやってくる。

(つづく)
『Destination that doesn't exist』 1
『Destination that doesn't exist』
~ 黄金の昼下がり - The Golden Afternoon - Extra Track ~

「もう存在しない人」ではない。
僕にとっての彼女は、
「存在しない人」なんだ。


 そしてまた、同じような朝がやってくる。
 その朝に僕は、G4のキーボードの横に置いてある携帯に、いつ着信があるか、もしくは知らないうちに着信していないか、ベッドを整えたり、コーヒーを飲んだり顔を洗ったりしている間も常に気にしている。
「だから、なに存在しない人の事を......」
 会社へ行く支度をしながらiBookを起動してメールチェックをする時も、飛行機が空を切る音の後に“Kei”の文字を探している。
「だから、なに存在しない人の事を......」
 出勤途中、バッグの中でマナーモードに入っている携帯が振動するのを待っている。事務所に着いて、デスクの右端に積んであるMOの上に携帯を置く時も、まずはサブディスプレイに彼女の名前を探した。電車を降りてからの人混みの中を歩いている間に振動に気付けなかったかもしれないからだ。
「だから、なに存在しない人の事を......」


 病院を出た僕が早々に仕事に復帰した理由には、作業に没頭していればそのことを忘れられるかもしれないと思ったというのもあった。実際、相変わらず忙殺寸前の毎日に戻ったのは確かだったが、しかし“忘れられるかもしれない”というのは見事にハズれてしまった。考えれば忘れるなんていうのは現実味がないぐらい無理な話だ。その証拠にいつだってMO山の上の携帯を視界の隅に入れていた。一服しにフロアの隅にある喫煙スペースへ行く時は、必ず携帯をポケットにねじ込んだ。
「だから、なに存在しない人の事を......」
 その度にまた、そんな風に心の中で言いながら。

 フと集中が途切れ、モニタから顔を上げた僕は大きくノビをしながら次に壁の大きな時計を見る。今の時間なら、彼女もちょうどバイトの休憩時間だろう。今日はおやつの大きなプリンの写真でも撮って、
『いいだろぉー!』
 って自慢メールをしてくるかな。おあいにく様。僕は甘いものが苦手なんでね。
『そんなん食べたくないもーんだ(-_+)凸』
 なんていう僕の返信に、彼女は大いにムカつく頃かな。思わず頬が弛んでしまう僕は、それを同僚に見られないようにまた、喫煙スペースへ足を向ける。
「だから、なに存在しない人の事を......」
 でも次の瞬間にはもう、大きな窓の外の青い空にかかった雲のカタチが面白くて、景にも見せてあげようと携帯のカメラを起動しているのだ。
「だから......」
 そうしている間に、景に見せたかったライオンの顔みたいな雲のカタチは風に吹かれて崩れてしまった。

(つづく)
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